ふりふり。ユラユラ。
 目の前で揺れる大好きな人の髪の毛。
 長くて、綺麗なその髪を見ていると……ふと悪戯をしたくなってしまう。
 好きなのが悪いのかな? 目の前で揺れる髪が悪いのかな?
 あぁ……悪戯したくて、掴みたくて堪りません。
 シグナムさん。貴女の髪、掴んでいいですよね?

 始まります。


「…………えいっ」
「むっ!?」
 こっそり、とシグナムさんの後ろに回り込んで、その長い髪を掴む。
 思いっきり掴んで引っ張ったわけじゃないけど、軽くシグナムさんの頭が後ろに引きずられる。
「何をしているんだ? なのは」
「シグナムさんが悪いんですよ?」
「私の何が悪いと言うんだ?」
「だって、目の前でユラユラと髪の毛を揺らされたら、掴みたくなりますもん」
「意味が分からないぞ」
「わたしだって分かりません」
 理由は分からない。
 だけど、あの揺れている髪を見ると、無性に掴んで引っ張りたくなるのだ。
「分からないって……」
 シグナムさんが呆れた顔でわたしを見ている。
 うぅ。そんな顔で見なくてもいいじゃないですか。
 わたしだって呆れたい気分ですよ? だけど、それでも目の前でシグナムさんの髪が揺れているから掴むんです。
「掴むな、とは言わないが急に触るのは止めてくれ」
「触るのはいいんですか?」
「……あぁ。私とて好きな人に触られるのが嫌というわけではないからな」
「シグナムさんっ♪」
「おわっ!? 急に抱き付いてくるな!?」
「えへへっ♪ シグナムさぁん♪」
 シグナムさんに抱き付いて、スリスリと顔を擦りつけていく。
 シグナムさんの温もりを感じるように。わたしの匂いを染み込ませるように。
「……まったく。お前は私の前でだけ我儘になるな」
「ダメ、ですか?」
「そんなことはない。頼られて、甘えられて嫌なはずがないだろ」
「ありがとうございます……」
 普段から真面目に、凛々しくしてないといけない。
 そうは思っているけど、ずっと真面目だと疲れてしまう。わたしが壊れてしまう。
 だから、シグナムさんには悪いと思ってるけど、つい甘えてしまうのだ。
「……えぃ」
「むぅ!? また私の髪を引っ張ったな?」
「ごめんなさいっ♪」
「満面の笑みで謝られても説得力がないぞ。それに触るなら先に言えと言っただろ」
「じゃあシグナムさんの髪、触りますね」
「……あぁ」
 シグナムさんの許可を得て、髪の毛を触っていく。
 ふにふに、もみもみ、さらさら、ふわふわ、くいくい。
「楽しいか?」
「はい。凄く楽しいですし、安心します」
 触っているだけで妙な安心感を抱いてしまう。
 このまま眠ってしまうことが出来そうな程の安心感があるのだ。
「髪を触るだけで、か」
「シグナムさんも触ってみますか?」
 自慢ってわけじゃないけど、わたしの髪もそれなりに長い。
 今は横で纏めているけど、シグナムさんとお揃いの髪型にしてみるのもいいかもしれない。
「そこまで言うのならば、触ってみるか」
「はい。触って下さい」
「あぁ」
「あっ、んぅ」
 シグナムさんがわたしの髪の毛を触っている。
 ただ触られているだけのはずなのに、変な声が出てしまう。
 好きな人に髪を触られるというのがこんなにも気持ちいいモノだとは思わなかった。
「……確かに、なのはの気持ちも分からないでもないな。妙な安心感を覚える」
「ですよね?」
「あぁ」
「わたしも、もっとシグナムさんの髪、触っていいですか?」
「いいぞ」
「ありがとうございます」
 二人して、しばらく互いの髪を触っていく。
 言葉を交わすでもなく、ただただ髪に触れていく。
 それだけなのに安らぎを覚えて幸せな気持ちになっていく。
 きっとシグナムさんも、わたしと同じ気持ちだと思う。
 だって、シグナムさん。凄く嬉しそうな顔をしているんだもん。だから間違いない。

 目の前で揺れる髪。
 それを触りたく、掴みたくなるのは――相手のことが好きだからなるみたい。
 好きな人の髪を触って安心感と幸福感を得たいから。
 だから無性に触りたくなると思うの。
 そういうわけだから……わたしは今後もシグナムさんの髪を触っていこうと思います。
 大好きな人の髪だから。

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