「すぅ……すぅ……」
 小さな寝息を立てながらぐっすりと眠っている彼女。
 いつまで経ってもその表情は愛らしくて、年を重ねて大人になっていっても眠る時の顔は幼い時のまま。
 ワタシと初めて出会った時のままの子供のような寝顔。
 誰にでも見せるわけではない安らぎに満ちたその表情。
 その表情を近くで見ることの出来るワタシはとてつもなく幸せモノなのだろう。

 始まります。


「マスター……いえ、なのは……」
「んんぅ、ん……っ」
 眠っている彼女の頬を優しく撫でると、くすぐったそうに顔を背ける。
 ただそこに眠っているだけ。特別何かをしている訳ではないのに、顔を見ているだでドキドキと心臓が煩く鳴り響く。
 心臓――その表現が正しいのかは分かりませんが、なのはを……マスターを愛おしいと
思っているこの気持ちは確かにワタシの何処かに宿っている。
 それはきっと人間でいう心臓と同じなのだろう。そうでなければ、このドキドキが説明つきません。
 彼女に名前を呼ばれるだけでココロが温かくなる。彼女に見つめられるだけで恥ずかしくなる。
彼女に触れられるだけでワタシは――
「れいじんぐはぁとぉ……」
「――――っ!?」
「んんぅ、むにゃ……」
 ね、寝言ですか!? 寝言とはいえこうして名前を呼ばれるとドキリとしてしまう。
 他の誰かに名前を呼ばれても同じ気持ちにはならない。彼女だから心臓が跳ねる。
 他の誰かに呼ばれて反応はしなくても、彼女の言葉にならすぐさま反応出来る。ワタシの耳は
彼女の言葉を最優先で聞こえるようになってしまっている。
 どんなに意味のない呟きでもワタシはその言葉を聞く。一言一句聞き間違うことなくその全てを。
「なのは……ワタシはどんな時でも貴女の味方ですから」
 周りが世界が貴女を否定してもワタシだけは貴女を否定しない。常に貴女の側に居て貴女に全てを尽くす。
 それがワタシの存在意義で矜持だから。
 なのはがどんな時でも自分の意志で空を飛び、挫けず前を向いていけるように。
 全力で貴女に尽くしましょう。
 ですからなのは。貴女もワタシを――
「わ、ワタシは何を考えているのでしょうか」
 貴女に尽くすから、なのはにもワタシのことを想って欲しいだなんて。
 ワタシとなのはは、マスターとデバイスという関係。それ以上でも以下でもない。
 確かな信頼関係はありますが、それはパートナーとしての関係。それだけなのです……
 ですから、ワタシのこの想いは間違い。
 なのはと恋人のような関係になりたいと思ってしまっているのはダメな思考。こんな思考は捨てなければいけない。
 そう。なのはの側に居ることが出来る。
 それだけで十分幸せではないか。こうして寝顔を近くで見ることが出来る。
 それだけでも幸せなはずなのに、何を求めているのだろうか。
 これ以上を求めるのは流石に我儘が過ぎる。
 彼女の信頼を得ている。それだけでも十分ではないか。
 だと言うのに――

「どうしてでしょう。ワタシはいつからこんなにも我儘になったのでしょうか?」
 それだけでは足りないと訴えてくる。もっと愛されたい。ワタシだけの彼女で居て欲しい。
 そんなことばかり考えてしまう。
「マスター。ワタシは悪いデバイスのようです……」
 自身のマスターを独占したいだなんて。そんなことを考えてしまう悪いデバイスなのです。
 それでももし、許されるのならば――まだ貴女の側に居ていいですか? そして――
「申し訳ありませんマスター」
 眠っているなのはの頬に軽く口づけをする。
 何も知らない貴女にこんなことをしてしまうのも許してください。
 お願いします、なのは。

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