それはきっと悪魔の言葉。
 その言葉を聞いてしまった者は、後悔と焦り。そして激しい戸惑いを覚えるだろう。
 出来ることなら聞きたくない言葉。一生、その言葉とは無縁であって欲しい。
 なのに――奈々ってば、私に直球の言葉をぶつけてきた。
「亜美。あんた太った?」
「ふぐっ!?」
「……何て声を出してんのよ。それより、太ったわよね?」
「な、ななな、何を……何を言ってるの? わ、私が太っただなんて、そんなこと……」
 あり得ない。あってはいけない。
 女の子にとって、太ってしまうというのは、とても罪深いことだ。
 ま、まぁ……仮に私が太ったとしても、それは服のせいだと思うの。
 裸になれば、私のベストの体型、そして体重のはずなんだから。
「間違いを認めたくないのは分かるけど、絶対に太ってるわよ?」
「ふ、太ってないもん! 服のせいだもん!」
 誰が何と言おうとコレは服のせいなの。決して、だらしない生活で太ったわけではない。
「服のせい……ね。それじゃあ、このお肉は何なのかしらね」
「ひゃうっ!?」
「ほら、こんなにもシッカリとお肉を摘まむことが出来るのよ? しかも……ぷにぷにじゃない」
「や、止め――お肉摘ままないでぇ」
「亜美が認めたら止めてあげるわよ。太ったわよね?」
「う、うぅ……」
 事実を、現実を認めろと。
 そんな意思を込めながら、奈々がぷにぷにと、ぐにぐにと摘まんでは揉んできている。
「早く認めなさい。本当にずっと触り続けるわよ?」
「……っ、分かったよ。認めればいいんでしょ? 認めれば」
「ええ。自分の口で言いなさい。太ってしまっと」
 奈々は、悪魔の言葉を呟くだけでなく、私にまで言わせようとしている。
 鬼だ。私の目の前に鬼が居る。
 だけど、私がこの台詞を言わないと、奈々はお肉を摘まむのを止めてくれないだろう。
「…………太りました」
「よし」
「……ぐすん」
 満足そうな顔を浮かべている奈々と、今にも泣きそうな私。
 泣きそうというか、泣かされたって言った方が正しいよね。
 わざわざ、こんな残酷な仕打ちをしなくてもいいのに、本当に奈々は酷いよ。
「あんた、凄く失礼っていうか、バカなこと考えてるでしょ?」
「ソンナコトナイヨ?」
「わざとらしいカタコトで言うんじゃないわよ。またお肉摘まむわよ?」
「ごめんなさい!」
 すぐさま謝罪の言葉を述べる。
 もうお肉を摘ままれるのは嫌なの。摘ままれる度に、現実を突きつけられてしまうから嫌なの。
「――ったく、太ってしまったのは仕方ないけど、ちゃんと痩せなさいよ」
「分かってるわよぉ」
「本当に分かってる? ちゃんとしないのなら、無理やり痩せさせるわよ」
「ど、どうやって……?」
「口に出すのも躊躇してしまうくらいのことをするわ」
「…………痩せる。本気で痩せるから」
「そう」
 少しだけガッカリしたような顔を浮かべているけど、奈々は私に酷いことをしたいのかな?
 嫌だからね。口に出すのも躊躇するようなことをされるのは、本当に嫌だ。
「その言葉、絶対に忘れないでね♪」
「……はい」
 ダイエットしよう。真面目にダイエットをしないといけない。
 二度と、悪魔の言葉をぶつけられない為に。
 そして、奈々による意地悪をされない為に。
 私は本気でダイエットをすることを誓うのであった。
 うぅ〜奈々のバカッ。

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