「巴ちゃん! 巴ちゃん!」
 私の姿を見つけた瞬間、大きな声を上げながら、私の名前を呼びながら近づいてくる女の子。
 周りの迷惑とか一切考えず、ただただ嬉しそうな顔を浮かべながら走ってきている。
「…………何?」
「えへへっ♪ おはよっ、巴ちゃん」
「……ん」
 眩しいくらいの笑顔で挨拶をしてくる。
 彼女の挨拶に対して私の返事は素っ気無いモノ。
 普通に考えたら相手の機嫌を損なうような態度。
 だけど、彼女は怒っている風でもなく、不快感を抱いているわけでもない。
 ニコニコと太陽のような笑みを浮かべている。
 私の口数の少なさを気にせず、勝手に色々なことを喋っていく。
「巴ちゃん聞いてよー。お母さんったら酷いんだよー」
「……」
「なんていうのかな、自分の娘に対する扱いが雑なんだよね!」
「……」
「いっつも、いっつも私をからかって遊んで……私の反応を見て楽しんで、もう……」
 話す。自分の言いたいことをペラペラと喋っていく。
 だけど私は一切口を挟まない。相槌も打たない。
 無言のまま彼女の一言、一言に耳を傾けているだけ。
「…………面白いの?」
 ふと、そんな言葉を呟いてしまう。
 だって全然会話になっていない。会話は相手の反応があるからこそ意味があると思っている。
 だから、反応を見せない私と話しをしていて面白いのだろうか?
 そんな疑問を抱いてしまう。
 この疑問は今日抱いた疑問じゃない。ずっと抱き続けていた疑問。
 彼女は私と居て本当に楽しいと思っているのだろうか? 私と居ることに苦痛を感じていないだろうか?
「あ、あれ? 私の話、詰まらなかった!?」
「……違う。逆」
「逆? それは、私が巴ちゃんと居て面白くないって思ってるってこと?」
「…………そう」
「もぉー。巴ちゃんは何をバカなことを言ってるの。そんなこと全然ないからね」
「……」
 少しだけ怒られてしまった。
 怒られてしまったけど、貴女を思っての言葉なのだ。
 とはいえ、思っているのなら――想っているのなら、きちんと反応をすればいい。
 そんなことは分かっている。だけど、コレが私なのだ。
 とても面倒な女。でもソレを矯正することは出来ない。
「確かに巴ちゃんは、口数が少ないけど私にはちゃんと巴ちゃんの言葉が伝わってるからね!」
「……私の言葉?」
 喋ってないのに言葉が伝わっている?
 貴女は超能力者か何かの類なの?
「私は超能力者じゃないからね」
「――――っ!?」
 ビクンとしてしまった。私が考えていたことがそのまま伝わっていたから。
 冗談じゃなくて、本当に不思議な力があったりするんじゃないの?
「巴ちゃんって、自分のこと無反応だったり無口だって思ってるよね?」
「…………でも事実」
「そうなんだけど、それでは何となく伝わるんだよ? ちゃんと見ていたら理解出来るの」
「……」
「巴ちゃんが私のことを思ってくれてるように、私も巴ちゃんのことを想ってるからね♪」
 あぁ……この笑顔だ。
 ズルい。貴女は色々とズルいと思う。
 どうして貴女はそんなにも私の心をくすぐるのだろうか?
「あっ♪ 巴ちゃん、照れてる?」
「…………違う」
「そっか♪」
 嘘も簡単に見抜かれてしまっている。
 照れてる。本当は照れている。でも、それを言葉には出さない。
 出さなくても彼女には伝わっているみたいだから。

 これからもきっと私は無口で無反応なままなのだろう。
 だけど、いつかきっと――以心伝心な伝わり方じゃなくて、言葉にして伝えたい。
 私の彼女に対する気持ちを……

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