シャク、しゃく。齧る音と咀嚼する音が鳴る。
 夏の定番。スイカ……それを今食べているのである。
「ん〜っ。やっぱりスイカは美味しいねぇ〜」
「そうね。この季節の定番ではあるわね」
 夏に縁側でスイカを食べる。昔からある定番の光景。
 最近は縁側で――というのはなくなっているけど、こういうのは雰囲気が大切だ。
「風流だねぇ〜」
「ええ。別段スイカが好きってわけじゃないのに、この季節になると食べないといけないって思うのよね」
「夏だからね♪」
「何よそれ」
 旬とかの問題もあるけど、それでも刷り込みなのか何か夏になると食べないと落ち着かない。
 夏っていうのは、そういうモノなんでしょうね。
「藍ちゃ〜ん。お塩取って〜」
「……自分で取ってきなさいよ」
 酷く距離が離れているわけでもないし、歩いて数歩の所に塩はある。
 私でもいいじゃん。そう言われると何も言えないんだけど、私じゃなくてもいいわよね?
「えぇ〜いいじゃん取ってよぉ〜」
「嫌よ。自分で取りにいきなさい」
「ぶぅー。藍ちゃんの意地悪ぅー」
「意地悪でも何でもないわよ。私はスイカを食べるのに忙しいの」
 そう言って、シャクリとスイカを齧る。
「藍ちゃんはお塩欲しいと思わないの〜?」
「私はいらないわ。スイカそのままの味を楽しみたいからね」
 塩をかけて食べるのも嫌いじゃないけど、素のままのスイカを食べる方が好きかしら。
 だから塩が欲しいとは思わないわね。
「お塩〜」
「自分で取りにいきなさいよ」
「……分かったもん。自分でお塩取るもんね!」
 意外と素直に私の言葉に従おうとしている。普段ならもう少し粘るんだけど、珍しいわね。
「それじゃあお塩いただきま〜す♪」
「ひゃぁっ!?」
 塩を取りにいくと思ったら、不意に私の頬を舐めだした。
「ちょ――!? 塩は!?」
「ん〜? お塩を取っているんだよ? 藍ちゃんの汗をね♪」
「あんたね……」
 いくら汗がしょっぱいからといっても、塩の代わりにはならないでしょうに。
 しかも、頬にスイカの汁気がたっぷりとついちゃってるじゃない。
「んん〜♪ 藍ちゃんの汗の塩気とスイカを一緒にお口の中に含むと凄く美味しいね〜♪」
「…………」
 ちょっと言葉が出ないわね。いくら何でも、それはないでしょうよ。
 絶対に美味しくないわよ。普通に塩をかけた方が間違いなく美味しいに決まっている。
「藍ちゃんが言ったんだからね? 自分でお塩を取ってこいって♪」
「言ったけど、頬を――汗を舐めろとは言ってないわよ」
「でもお塩だよ?」
「違うわよ」
「違わないよ〜」
「……もういいわ」
 何を言っても意味がなさそうだしね。このまま好きにさせるのが一番いいでしょう。
「えへっ♪ 藍ちゃんも舐められて嬉しいんだよね〜?」
「……ノーコメントで」
「えへへっ♪」
 ペロペロと頬を舐めては汗を口に含んでスイカを齧る。
 まったくもっておかしなことをやっていると思うわ。
 因みに頬を舐められるのが嬉しいかについては、答えを控えさせてもらうわ。
 こういうのは自分の心の中に留めておくものでしょ?
「スイカ美味しいね〜藍ちゃん♪」
「そうね。スイカは美味しいわね」

 夏の風物詩のスイカ。それを仲良く二人でシャクシャクと食べていく。
 頬を舐められているのは意外だけど、それでもいいんじゃないかしら?
 これもきっと夏の風物詩だから。

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