「暑いな……」
「暑いですね〜♪」
 季節は夏。太陽が昇る時間が長くなり、そして気温が上昇する季節。
 この季節が暑いのは毎年のこととはいえ、それでも暑いと思ってしまうのは仕方がないだろう。
 だが、今ワタシが暑いと思っているのは何も夏という季節のせいだけではない。
 この蒸し暑い中、私の隣にピッタリと寄り添うように座っているなのは。
 彼女のせいで私は余計に暑い思いをしているわけである。
「なのは。少し離れてくれないだろうか?」
「えぇー嫌ですよー」
「なのはは暑いとは思わないのか?」
「思ってますよ? 凄く暑いですね。ムシムシとしてて汗をかいてしまう程に暑いですよ♪」
 暑い。そう言葉として言ってはいるが、その顔は妙に嬉しそうだ。
 夏が――暑いのが特に好きだというのは聞いていないのだが……何故、そうも嬉しそうなのだろうか。
 本当にあまりの暑さに汗をかいてしまいそうだというのに。

 始まります。


「……なのは。暑いと思っているのならば、どうして距離を詰めてくるんだ?」
 ここまでくっ付いていると余計に暑くなってきてしまう。
 少し間を開けるだけで気持ち程度涼しくはなると思う。それでも暑いことに変わりはないのだが。
「シグナムさんはくっ付かれるの嫌ですか?」
「うぐ……っ」
 卑怯だ。そんな悲しそうな顔を浮かべながら問いかけてくるのは実に卑怯だ。
 なのはにそんな顔をされながら問いかけられてしまうと何も言えなくなってしまう。
 大よそその顔はわざと――演技でしていると分かっていても感情が納得してくれない。
 早くなのはの笑顔を見たいと。笑顔にさせないといけないと思ってしまうのだ。
 私がなのはの笑顔が大好きだというのもあるのだろうがな。
「わたしはシグナムさんと、こんな風に一緒に居たいんですけど……」
 目尻に涙を浮かべながらの上目遣い。可愛らしさの残る表情。
 そんな表情を見せられて文句を言える人間はいないだろう。
「……私もなのはと一緒に居たいと思っている」
「にゃはは♪ じゃあ、もうしばらくこのままでいいですよね!」
「そ、そう……だな」
 満面の笑みを浮かべながら更に私に抱き付いてくる。
 柔らかな感触と共になのはの甘い匂いが香ってくる。
 しかし、それらと同時にやはり暑いとも思ってしまうのだ。
「えへへ……シグナムさ〜ん♪」
「はぁ……」
 どうやら諦めるしかないようだ。
 なのはが満足するまで暑い状態で――密着した状態で過ごしていくしかない。
 まぁ、暑いというのさえ我慢をすれば今の状態は文句一つない状態なのだがな。
「ふふ。シグナムさんから汗の匂いがしますよ?」
「それは、なのはも同じことだろ」
「暑いから仕方ないですよ♪」
「そうだな」
 なのは自身も暑いと思っているのならば、離れて欲しいと思うが言うだけ無駄なのだろう。
 先ほどまでのやり取りから考えて、これまでの付き合いから推察するに無駄にしかならない。
 だったら諦めてなのはの好きにさせればいい。
 なのはが私に抱き付き匂いや感触を堪能するのであれば、私も同じように堪能していけばいいのだ。
「…………」
 とは思うが、それはそれで何か主はやてのような感じがして躊躇を――いや、決して主はやてを貶しているのではない。
 ただ時には自重すべきではないのか。そう思わないこともないというだけだ!
「ねぇシグナムさん。後で一緒にお風呂に入りましょうか」
「一緒に……か?」
「はいっ♪ 二人とも結構汗をかいてますし、一緒に入った方が楽だと思うんですよね」
 一緒に。二人して裸になって一つの空間に居る。
 あまりいい予感はしないな。と、いうより最初からコレが狙いだったのか?
 勿論、普通に抱き付いて色々と堪能するというのもあったのだろうが、一緒に風呂に入るのが一番の目的だったのかもしれない。
「……何もしないのならば構わないが」
「……………………もぉーシグナムさんったら何を言ってるんですか。何もしませんよ♪」
「そ、そうか」
 どうして答えるまでに時間がかかったのだろうか。そしてその妙な笑顔は何なのだろうか。
 あぁ、間違いなく風呂場で何かをさせそうな気がする。
 そんな予感がヒシヒシと伝わってくるが、どの道私になのはの提案を断ることは出来ないのだろう。
 先ほどと同じように涙を浮かべながらの上目遣いを使われるのがオチなのだから。
「なのは。お前は最近、主はやてのようになってきていると思うのだが私の気のせいなのだろうか?」
「にゃはっ♪ 勿論気のせいですよ♪」
「……そうか」
 気のせいだということにしておこう。あぁ、そうに違いない。そうであって欲しい。
「それじゃあシグナムさん。一緒にお風呂に入りましょうか」
「あぁ」

 そうして、なのはと一緒に風呂場へと向かった。
 この後何があったのか。それはあまり思い出したくはないな。
 何と言うべきなのか、色々なモノを失ったような気がするとだけ言っておこう。
 そしてこの夏の暑さと共に忘れ去っていこう。
 きっとこの暑さが記憶を蕩けさせてくれるだろうから。
「ふぅ……スッキリしましたね、シグナムさんっ♪」
「特になのは。お前はスッキリしただろうな」
「にゃはは……シグナムさん程じゃありませんよ? いっぱい吹き出しましたもんね♪」
「あ、あぁ……」
 まったくもってなのはには敵わないな。せめてクーラーを使うことが出来ればよかったのだが、使わせてもらえなかったからな。
 今後は今回みたいなことにならないようにしたいと思う。
 まぁ、出来れば……の話だがな。

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