「〜♪ 〜〜〜♪」
 鼻歌交じりに、なのはが料理を作っている。
 エプロンを身に着けたその後ろ姿はとても愛らしく、見ていて抱き締めたくなる衝動に襲われる。
 しかし、我慢をしなければいけない。
 抱き締めるなんて、私には似合わないだろうからな。
 だから私はこの気持ちを抑え込もう。
 私は、なのはの望む姿の私でいたいから。

 始まります。


「ふ〜ん♪ ふふふ〜ん♪」
 実に楽しそうに料理を作っているなのは。
 なのはのこんな可愛い姿を一人占め出来るなんて、本当に私は幸せ者だ。
 しかし、同時に不幸者でもある。
 可愛らしいなのはに手を出す事が出来ない。
 今すぐにでも、なのはの身体を抱き締めたい。
 今すぐにでも、なのはの唇にキスをしたい。
 今すぐにでも――
 だが、出来ない。
 私は恐れているんだ。
 なのはに小さくて、厭らしい人間と思われたくないんだ。
 だから、なのはに手を出す事が出来ない。
 私は臆病だ……

「……さん。し……む……ん」
 なのはが、私を呼んでいる……?
「――シグナムさん! 聞こえてますか?」
「あ、ああ……どうしたんだ?」
「どうしたんだ? じゃないですよ。話しかけても全然反応してくれませんでしたし、心配したんですよ」
「すまない……」
 どうやら意識が変な所に行っていたようだ。
 悪い事を考えている時はいつもこうだ。
 周りが見えなくなってしまう。
「思い詰めたような顔をしてましたけど、何か悩みでもあるんですか?」
 不安そうな表情で聞いてくるなのは。
「あ、いや……なんでもないんだ」
「そう、ですか……」
 悩みは、あるにはある。
 しかし、こんな悩みをなのはに打ち明けるわけにはいかないだろう。
 私は彼女の前では完璧でいたいのだから。

「シグナムさん。無理だけはしないで下さいね」
「なの……は?」
「私はシグナムさんが大好きですよ。たとえ、どんな気持ちを抱いていてもです」
「……はは」
 私の気持ちはすでに見透かされていたということか。
 なのはが凄いのか、それとも私が情けないのか……だが――
 今の、なのはの言葉。
 その一言で全てが救われたような気がする。
 私は私の想いで行動していいんだ……と。

 ありがとうなのは。そして済まない。
 今後私は、自分の気持ちのままに行動しようと思う。
 あなたへの愛情を真っすぐと。

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