まだまだ口にした事の無い物は沢山ある。
 かといって、特別それを口にしようとは思わない。
 でも、なのはが教えてくれる味ならワタシは迷わず、それを口にしよう。
 しかも彼女が作ってくれる物なら、尚更だ。

 始まります。


 何やら台所の方から芳ばしい香りがする。
 なのはが何かを作っているみたいだけど、一体何を作っているのだろうか?
 なのはの邪魔をしてしまうのは心苦しいが、気になってしかたが無いので聞いてみる事にした。
「なのは。一体何をしているのですか?」
「ん。コーヒーの豆を煎っているんだよ」
「豆をですか……」
 確か豆を一から煎ってコーヒーを入れると美味しいとは聞くが、まさかなのはがそれをしているとは……
 ああ……そうか。そういえばなのはは、喫茶店の娘でしたね。
 だからといって、それが普通なのかは分からないけど、なのはにとっては普通なのかもしれない。
「出来上がったら、レイジングハートも飲んでみる?」
「コーヒーをですか……」
 コーヒーはまだ一度も飲んだ事が無い。当たり前といえば当たり前なのだが、少々味が気にはなる。
「頂いてもよろしいですか?」
「うん、いいよ」
 そう言ってなのはは、再び作業を開始する。
 初めて飲むコーヒーか……どんな味がするのだろうか?
 情報としての味は理解しているが、実際飲んでみると違うのだろう。
 しかも、なのはが淹れるコーヒーだ。それだけで、また感じ方も変わるだろう。
 ワタシは、コーヒーの味に色々な想いを巡らせながら出来上がるのを待つ。

「出来たよ、レイジングハート」
 暫くして、ついにコーヒーが出来上がったようだ。
「そういえば、砂糖はどれくらい入れる?」
「そうですね……」
 少しだけ考えてみたけれど、飲んだ事が無いのでどれくらい入れればいいのかが分からない。
 だからまずは試験的な意味を含めて――
「何も入れないで飲んでみます」
「そう? ブラックだと結構苦いけど大丈夫?」
「大丈夫かは分かりませんが、一応それで飲んでみます」
 何事も経験だから……
 だからワタシは手渡されたコーヒーをそのまま飲んだ。

「れ、レイジングハート?」
 初めて飲んだコーヒーは……
「に、苦いです……」
 凄く苦くて、とてもじゃないがそのまま飲む事は出来そうに無い。
「にゃはは、やっぱり砂糖入れた方がよかったみたいだね」
「そうですね……」
 砂糖を入れれば美味しく飲めると思う。でも――
「あれ? レイジングハート砂糖入れないの?」
「はい。この一杯だけは、そのまま飲もうと思います」
 この一杯。なのはが初めてワタシのために淹れてくれたこの一杯だけは、味を変えずにそのままの味で……


 初めて飲むコーヒー。
 その味はとても苦くて、でもその苦さが何故か嬉しくて。
 きっとこれも、なのはの魔法じゃないのかなって思う。
 なのはにはそれが出来るからなんて思ってしまうワタシは、どうなんだろうか?
 苦いコーヒーを飲みながら、ふとそんな事を考えていた。

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