「こほっ、けほ……っ」
 咳が止まらない。頭が痛い。身体が怠い。
 普段から体調には気をつけているのに、本当に情けない。
「体調が悪い上に自己嫌悪だなんて、色々と最悪ね」
 それにしても風邪を引いたりして体調が悪いと人恋しくなってくるわね。
 凄く会いたい人が居る。だけど今の私が会うわけにはいかない。
 あの人に風邪を移したくないから。それでも――
「それでも会いたいと思ってしまう私は罪深いのかしら?」

 始まります。


「うっ、けほ、ごほっ」
 あまりの辛さに何もする気が起きない。
 風邪を引いているのだから大人しく寝ているのがいいのは分かっている。
 でもただ寝ているだけってのは暇なのよね。それにお腹も空いたりしてるし。
「ほんと、最悪だわ……」
 嫌になる。普段からシッカリしていようと心がけているだけに嫌になってしまう。
「はぁ……なのはさん。会いたいです」
 こんな時、あの人なら何て言うのかな? どんな言葉をかけてくれるのだろうか?
 私の気の弛みを怒るのかしら? それとも優しく看病をしてくれるのかしら?
 きっと後者よね。なのはさんは優しいから、だからきっと優しく看病してくれると思う。
『ティアナってばしょうがないなぁ……』なんて、呆れたような笑みを浮かべながら看病してくれると思う。
「……でもやっぱり会いたくないかな」
 凄く会いたいけど、会いたくない。私の風邪を移すのは絶対に嫌だから。
 だけど、それでもやはり会いたい。
「気が弱くなって意味の分からないことを考えてるわね」
 さっきから反することばかり考えてる。矛盾したようなことばかり思ってしまっている。
 風邪を引かなければこんなバカなことを考えたりはしないのに、だから風邪を引くのは嫌なのよ。
「…………寝よ」
 どんどん気持ちが暗くなってきた。こんな時は素直に寝てしまうのが一番いい。
 だから早く寝よう。寝れば風邪の治りも早くなると思うしね。
「お休みなさい…………」

「――もう、ティアナってばしょうがないんだから」
「んっ、んぅ……」
「風邪を引いたのならそう素直に言ってくれればいいのに、どうして秘密にするかなぁ?」
 何か声が聞こえる。何処かで聞いたことのあるような声が。
 私が今一番聞きたいけど聞きたくない声が聞こえる。
「偶には素直になるのも大事なんだよ?」
 額がヒンヤリと冷たい。それに頭を撫でられているような気もする。
「ん……あっ」
「あら? もしかして起こしちゃった?」
「なの……は、さん?」
「おはよ、ティアナ」
「おはようございます」
 居た。やっぱり居た。会いたくないけど凄く会いたい人が――なのはさんが私の側に居た。
 寝ている私の側で撫で撫でと私の頭を撫でてくれている。
 私の想像した通りの顔をしながら頭を撫でてくれていた。
「すみません、なのはさん」
「何が?」
「わざわざご迷惑をかけてしまって。それに私の風邪が移るかもしれませんし」
 絶対ではないけど、風邪が移る可能性だってある。
 だから出来る限り、風邪が治るまで会いたくはなかった。それに余計な心配もかけてしまったし。
 だというのに――
「そんなことないよ。わたしとしては、風邪引いたのを黙ってたことの方が嫌かな」
「すみません……」
「また謝ってる。そんな言葉より、ティアナの笑顔の方が欲しいかな」
「――――っ!?」
 この人はどうして気軽にそんな台詞を言うことが出来るのだろうか?
 こんな弱っている状態で、そんな台詞を聞かされたら変になってしまう。
 ただでさえ罪深いことを思ってしまっているのに、更に酷いことを思ってしまう。
 我儘な想いを抱いてしまう。
「後でお粥を作ってあげるね」
「……はい」
「だからもう少しゆっくりと休んでいて。迷惑とか余計なことを考えないで我儘になって」
「なのはさん……」
「誰かに気持ちをぶつけることをしないと、そのうちティアナが壊れちゃうよ?」
「それはなのはさんも同じじゃ――」
 なのはさんだって自分の気持ちを平気で隠して偽っていく。
 辛いことを辛いと言わずに自分一人で苦しんでいく。
 むしろなのはさんの方にその台詞を言ってあげたい程だ。
「にゃはは……わたしはティアナが元気になったら甘えるからいいの」
「え……?」
「わたしが甘えるのは後でね。だから今は先にティアナが甘えてもいいんだよ」
 そう言って満面の――本当に眩しいくらいの笑みを浮かべる。
「う……」
 あ、ヤバイ。もうダメだ。
「うわぁああぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁっ!」
「よしよし。わたしが側にいるからね」
「うっ、ぐす、うぅ……」
 なのはさんに抱き付きながら涙を流す。気が弱っているせいか、こんなことで簡単に涙を流してしまう。
 情けなく泣いてしまっている。
 だけど、なのはさんはそんな私を優しく受け止めて慰めてくれている。
 ズルい。今の私は本当にズルい女だと思う。
 罪深くて我儘で最低だ。
 でも……
「よしよしっ♪」
 この人だから――大好きななのはさんだから、こうなってしまうのだろう。
 きっと風邪とか体調不良とか関係なしに、この人だから私は依存してしまうのだろう。
 それがもっとも罪深い感情だと理解しながらも止めることは出来ない。
 私はそういう性格だから。
 どれだけ自己嫌悪に陥っても止めることが出来ないのだ。
 まったく嫌になるわね。でも――今だけは、なのはさんの優しさに甘えよう。
 何も考えずに赤ん坊のように、自己を正当化しながら……

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