たっ、たたた、たんっ♪
 ピシャ、パシャッ……リズムを刻む度に、水が跳ねて音が鳴る。
 シトシト、ザアザア。そんな音を背景にリズムを刻み、ステップを決めていく。
 傘も差さずに、ただただ無意味に踊っている。
 雨に濡れながら踊っているわたしは、きっと他の人から見たらただの変な人だろう。
 実際問題、わたしだってそんな人を見たら変な人だと思う。
 大丈夫なのかと心配になってしまう。
 だけど、今はこうして無意味に踊っていたいような気分なのだ。
 バカみたいに――何も考えずに雨に濡れながら……

 始まります。


「……あ、雨」
 帰ろうと外に出たら雨が降っていた。ザーザー、と雨が降りしきっていた。
「傘……持ってきてないや」
 天気予報では、雨は降らないって言っていたんだけどなぁ。
 まぁ、絶対に当たるわけじゃないから仕方ないんだけど……どうしようかな?
「タクシーを呼んで……ううん、これくらいなら別に濡れてもいい、かな?」
 そんなに距離があるわけでもない。
 確かに濡れてしまうけど、別に濡れっぱなしじゃないだろうし、帰ってすぐにお風呂に入れば大丈夫なはず。
「それに、偶にはこういうのもいいかもしれないよね」
 真面目なことばかりしてたら疲れちゃうもんね。少しくらいバカなことをしてもいいと思う。
 だから――
「えいっ♪」
 わたしは思い切って、外に出てみた。雨の中、傘を差さずに外に出てしまった。
 当たり前のことだけど、傘を差していないからすぐに服が濡れてしまった。
 ビチョビチョに濡れて、身体に張り付いてきてしまっている。
「ふふっ♪」
 ここまで大胆に濡れてしまうと色々と吹っ切れてしまうものだ。
 服は――身体は濡れてしまっているけど、心は妙にスッキリと晴れやかだった。
「ふ〜ん、ふふ〜んっ、ふふっ♪」
 クルクルと躍る。
 鼻歌を歌いながら、ステップを刻んでいく。
 綺麗でも正しいわけでもないステップ。規則性もなく、心の赴くままに足を動かしていく。
 早く帰らないといけない。そんなことは分かっているのに、わたしは踊っている。
 雨の中、傘も差さずに無意味に踊っている。
 バカなことをしている。それは重々理解しているのだけど、凄く楽しいのだ。
 こうして頭を空っぽにして、バカなことをしているこの瞬間が。
 さぁ、もっともっと踊りましょう。降りしきる雨の中、歌を口ずさみながら踊りましょう。
「たっ、たたた、たんっ♪」

「――で、雨の中バカみたいに踊っていた結果がコレなんだ……」
「う、うぅ……ごめんなさい」
「もう、なのはママは偶に変なことをするよね。私を呼んでくれてもよかったし、何か乗り物に乗ってもよかったのに……」
「そんな可哀想な人を見る目で見ないでよぉ……」
「じゃあ、バカなことしないでよ」
「ごめんなさい……」
 雨の中、傘も差さずに踊っていた結果、わたしは見事風邪を引いてしまいました。
 すぐに帰れば引かなかったかもしれないけど、現実は風邪を引いてしまっている。
 そして、ヴィヴィオに怒られているわけだけど……
「まったく、なのはママはバカなんだから……」
「うぅ、最近ヴィヴィオの言葉がキツイ。反抗期なのかな……?」
 グサグサと心の突き刺さるような言葉を言ってきたりする。
「昔は、そんなこと言わなかったのに、もっと可愛かったのにぃ……」
「むぅ……それって、今の私が可愛くないみたいなんだけど」
「ヴィヴィオは今でも可愛いけど――でも、優しさが足りないのぉ!」
「何で、なのはママの方が子供っぽくなってるの?」
 呆れたような顔でわたしのことを見てきている。いいじゃない。別に子供みたいにヴィヴィオに甘えてもいいじゃない。
 少しはわたしを甘やかしてくれてもいいと思うの。
 だから――
「ヴィヴィオ〜」
「あーもう、そんな顔で見ないでよ。きちんと看病してあげてるでしょ」
「やっぱりヴィヴィオが冷たい」
「むしろ凄く優しい方だと思うんだけどなぁ……」
 そう言って、額のタオルを交換する。
「もう、今度こんな変な理由で風邪を引いたら怒るからね」
「もう怒られたような気がするんだけど……」
「もっと怒るの! 今よりもキツク怒るからね!」
「はぁ〜い……」
「もう……」
 まぁ、少しばかりヴィヴィオに怒られてしまったけど、偶にはこういうのもいいよね?
 こういう家族の団欒もいいと思うの。
 さすがにもう雨の中、踊ったりはしないけど。
 だって、ヴィヴィオが怒ると怖いんだもん。ほんと、誰に似たのやら……
 それでもわたしを心配しての言葉だから、嬉しいんだけどね。ふふっ♪

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